はじめに

国際ビジネスにおいて、コミュニケーションの殆どが英語で行われており、その大部分は対話ではなく文書によるものです。1940年代までは、英単語数で課金する国際電報が国際取引での即日交信手段でした。1940年代から1980年台前半までは、時間単位で課金するTELEXが主流となり、交信量がかなり増大しました。1983年頃からイラストや図面も文書と共に交信できる電話料金課金のファクシミリがテレックスに取って代わりました。1990年台後半からは、どんなに多くの回数や量の交信をしても費用が殆ど掛からないEメールが全盛期となり、自分のデスクからボタン一つで世界中に気軽に発信できるようになりました。

その結果、英文Eメールの交信は超飛躍的に増大し、ビジネスパーソンは1日に数十通もの英文Eメール及び/又は貼付文書を受取り、その返事を英文で発信する時代になりました。一昔前には全然考えられなかったことです。更にこの12〜13年で、IT技術の進歩と普及により情報があふれ、仕事のやり方が様変わりしてスピード化しました。超多忙なビジネスパーソンが読んでいて気持ちよく頭にスウーっと入って来る簡潔で明快な英語のEメールや文書は、受信者にとっては非常にありがたく、発信者にとっては大きな武器となります。忙しさが増して交信がスピード化したが故に、「頭にスウーっと」が非常に重要になって来ました。

良い効果的なビジネス英文書とは、正確・簡潔・明快・会話調・丁重・説得力のあるものです。

ビジネス英文書の2大目的は、「知らせるinform」と「説得するconvince」です。つまり、「知らせる」と「説得する」という2つの効果(effect)を受信者に気持ちよく起こす文書が、良い英文書と言えます。

私は、海外営業のサラリーマン人生を終えて、ネットでビジネス英作文添削教室を運営し始めました。添削問題(初級・中級・上級)の添削が千件を超えた頃、英作文回答者達に対して「良いgood」「効果的なeffective」ビジネス英文書とは何か?を、添削者として明確に示す必要があると考えました。そこで、これまでに行なった添削とその解説に基づき、以前の英文での海外取引・交信の経験も加えて私なりに到達した結論が       
6Cs (シックスシーズ) でした:
Correct 正しい
Concise 簡潔な
Clear 明快な
Conversational 会話調の
Courteous 丁重な
Convincing 説得する
そこで、「正しくない」を4種類に分けて、次のような基準で添削結果を採点する仕組みを考案し、以後の英作文問題回答者に100点満点から減点した点数を、添削とその解説・模範解答例と共に返送しました。
                                                       添削1件の減点
A 外観誤 正しくない 形式上の慣用ルールから外れている −2
B 基本誤 英文基本5文型に反している −8
C 不注意 不注意から来る初歩的なミス −6
D 文法誤 基本誤以外の文法的間違い −5
E 選択誤 不適切な、ぎこちない語句を使う −3
F 要改善 簡潔でない、明快でない、会話調でない、丁重でない −4
G 説得力 説得力に欠ける −7

均質で手間の掛からない添削方法をこの考案に加えて、ビジネスモデル特許を申請し、2007年9月に特許権が確立しました(特許第4018651号)。過去8年間に、1,220の問題を提供し、10,526の英文回答に添削をしました。
  初級の会員用に554問題(4,600回答に添削)
  中級の会員用に558問題(5,218回答に添削)
  上級の会員用に108問題(708回答に添削)
定期的に英文回答を送ってくる会員の方々は、この客観的な採点方式で、自分の間違いの種類と傾向がよく分かり、英作文力が着実に向上しています。

私がこの本を書こうと思い立った背景
私がこの6Csという英作文の基本を確認して以来、今まで何気なく正しいものとして読んでいた種々の外国人が書いた英語の文書や、出版されたビジネス英作文の本、権威ある雑誌や和英活用辞典の中の英文例が、かなり多くの確率で6Csの何れかの要件を満たしていない事に気が付き始めました。日本の一流商社の海外取引のベテランや、TOEICの成績が900点前後の日本のビジネスパーソン達の英文も、例外ではないことが目につき始めました。つまり添削教室で回答者の添削を続けているうちに、私の頭の中に「ビジネス英文書とは6Csであるべきだ」という概念が固まり、上記のような英文例を読む度に、6Csでない処でつまづき・抵抗を感じて、スムースに頭の中に入って来ないことが多くなりました。

この事を裏返しにすれば、上記のような本・雑誌・辞典や外国人の英文書を参照・借用して日本のビジネスパーソン達が書いたビジネス英文を、外国のビジネス相手が読むときにも、私と同じように頭の中にスウーっと入って来ない抵抗を感じている、と推察します。ましてや英作文に経験が豊富でない日本のビジネスパーソンの英文は、相手の読むときの抵抗感が頻繁で大きくなり、ビジネス文書の2大目的を気持ちよく達成できないケースが増えるでしょう。無くても意味が通じる不要な語句、あいまい・抽象的で意味が分かりにくい、冗長で読み辛い、古めかしい表現や大きい単語、結論にたどり着くまで読む時間がかかる、等の英文書を受取ると、相手は読んでいて嫌になると思います。

私は、50年間の海外ビジネス交信の経験と、12年間の英作文添削教室+翻訳業務で蓄積した「気持ちよく頭にスウーっと入って来るビジネス英文を書くノウハウ」を本書で具体的に正誤表で開示し、相手から「貴方の英文は分かり易く明快ですね」とほめられるよう、海外取引をするビジネスパーソンに手っ取り早くお役に立ちたいと願っています。本書の内容や英文はそんなに難しくないので、これから海外との交信を目指そうとする若い人達や高校生にも、幅広く読んでもらえることを期待しております。

工業・医学・情報の技術は日進月歩で、次々と新しい事が生まれ過去の正しいことが間違いとなるか陳腐化するような分野ですが、英語の知識は、一旦正しく習得するとそれをそのまま一生の間活用できます。ここが他の技術と英語の知識の大きな違いです。従って本書は、例えば漢和辞典のように、あなたのビジネスライフの間だけでなく次世代の人達にも陳腐化せずに、座右の書として活用されるでしょう。

この本で取扱う文書を定義します。
この本の説明の対象となる文書は、次のビジネス英文書に限定します:
  手紙、FAX、Eメール、提案書、企画書、報告書、説明書、案内書、取扱説明書、など
次のビジネス英文書は除きます:
  契約書、技術・医学・特許・論文など専門的な文書、
  高度な洗練された魅力的な表現を必要とする商品やサービスの説明文やカタログ

おことわり
この本の中の例文には、ネイテイブが書いた文章を多く引用していますが、その中には、本書で「避けた方がよい」と説明している「重たい表現、字数の多い単語」などが含まれている場合もあることを、ご了解下さい。

最後に、この本に使う英文資料を提供してくれた私の添削教室の会員の方々、この本に載せる英文をチェックしてくれた私の米国の友人Ms. Carleen MartinとMr. David Cooper、本の内容に貴重なコメントをしてくれた大崎直忠氏、本のカバーにすてきなイラストを描いてくれた長縄キヌエ氏、及び原稿の完璧な校正をしてくれた文芸社の編集部の方々に、深く感謝します。

本の内容についてご質問があれば、http://www.eishakubun.com/の「お問合せ」をご利用下さい。

2010年2月           著者 ヘンリー河村